自然を楽しみ、落ち着いて制作に集中できる理想郷

2024.12.13

ビルの壁面や倉庫に描くニカっと笑うモンスターの巨大アートなどで国内外に多くのファンを持つアーティストのYoshi47さんと、気候やアトリエの空気、光や雰囲気を織り交ぜて描く画家の瑠都さん。アーティスト夫婦は2020年に田原市へ移住し、自宅の隣に建てたアトリエで、ともに日々制作に取り組む。田原の豊かな自然や地域の人たちとの心地よい交流が二人の活力となり、日々の充実した生活、そして制作へのインスピレーションが生まれている。

自分がやりたいサーフィンとアートが存分にできる場所

「カラダが整って頭がクリアになるサーフィンは、アート制作と結びつきがいいです」

Yoshiさんは朝仕事の前に海へ出掛けるのがルーティン。いい波のときは仕事を少し遅らせたり、予定を入れ替えたり、その日の波や潮によって自分の時間割が決まっていく。

「ここ3日くらいはずっといい波なんですけど、いまは次の個展制作の準備を優先していて、朝は釣りだけに調整しています。でも午後まで仕事を続けてて友だちが『いい波だよ』って教えくれるときは、制作に支障がなければ海に出掛けます」

「海に入って後ろを見たら断崖絶壁みたいな、そんな自然の中でのサーフィンが心地よかった」

自然との一体感が田原の魅力と話すYoshiさん。海外と日本、いろいろな場所を旅するように暮らし、東京で暮らしていた頃は世界を飛び回る目まぐるしい日々を過ごした。「年末になるとカラダはボロボロでしたね」といろいろな理由から住む場所を考えたそう。

サーフ/スノーアイテムを扱う刈谷市にあるショップSIDECAR surf&snowのクルーとともに田原市を訪れ、3年ほど通いじっくりサーフィンをして「ここかな」と感じるものがあった。

魅力ある場所は他にもあったが地元の愛知県を選んだ。徳島県美波町で少しの間暮らしていたとき、藍染師でサーファーの永原レキさんを中心に街づくりが進んでいく様子を間近で見て、小さな街でも東京みたいな爆発的なクリエイティブが生まれることを体験。同い年の友人の姿に誰もが一つしかない故郷でやるべき意味を感じた。

「これからはすべてが揃ったこの場所でただただレベル上げをしていくだけですね」と定住の地での抱負を話す。

田原で自分の描きたいものが増えた

「お客さんが来たら外で一緒に絵が描ける場所を庭に作りたいんです」

絵描き友だちから「スケッチしに行きたい」とよく声をかけられるという瑠都さん。作品づくりだけでなく中学校などで美術を教えてきた。今は近くの「あかばねこども園」でもアトリエリスタとして関わっている。「未就園児のみんなも外で絵を描くといい顔するんですよ」と頬を緩ませる。

「アーティストと中学生とか地元の描きたい人が混ざって一緒に外で絵を描くイベントを企画できたらいいな」と目を輝かせて話してくれる。

「移住して自分が変わっていき、興味の対象が変わってきた。絵も変わった感じがします」

住む前に思い描いていたよりもたくさん得るものがあったそう。やってみたかった家庭菜園をはじたのもその一つだ。「苦手だった雨も自分の畑に降り注ぐと思うと嬉しくなる」と瑠都さん。

「たくさん近くの風景を描くようになったよね。どんどん絵が明るくなってる」とYoshiさんが瑠都さんの変化を教えてくれる。「光の印象も以前住んでいた知多半島とは違ってますね」と瑠都さん。

畑の野菜や、虫たち、作物を食べ荒らす獣などの身近な自然とのふれあいからインスピレーションをもらう二人。「人間以外のまわりのものと密接に繋がりができたから、僕も自ずと自然を描くようになった」とYoshiさん、都会にいた頃と描く題材も変わってきた。

一つのアトリエでそれぞれの制作活動に集中し、夜は意見交換などアートの話で盛り上がる。じっくり自分のやりたいことに向き合える基地で、お互いに影響しあいアートを深めていく。

自然を感じ自分らしい生き方を体現できる場所

「地元の方が配達のついでに『ちょっと絵を見させてもらうよ』って絵を見に来てくれたこともありました。私たちに興味を持ってくれることが嬉しかったです」と瑠都さん。

「僕が近所付き合いを好きなのはありますが、住んでいる地区の人たちが受け入れる気質の人たちなのも、大きいかもしれませんね。ご近所さんは余ってるものを持ってきてくれたり、『足りとる?』と声をかけてくれたり、僕が出掛けているときは家の安全などに気を遣ってくれたり、ほんとに良い関係性です」とYoshiさん

知らない土地に住まわせてもらうからには、地元の人へのリスペクトは大切なこと。一緒に笑っていてくれる人がまわりにいる安心が二人の幸せな暮らしを形作っている。

ゲストが来たら連れて行くというお気に入りの場所を教えてもらった。高台からは太平洋を一望でき、ビーチに降りると火星のような砂浜の先に緑がかった波が打ち寄えるスカイブルーの海。この海岸にはウミガメが産卵にくるのだそう。

ピンピンに新鮮な野菜を食べたり、地元の人しか行かないような静かな海岸でのんびり過ごしたりすると、県外からくるアーティスト仲間たちは「私たちもこんなゆっくりできるところに住みたい」と都会に帰っていく。

流行や忙しさに巻き取られず、自然と触れ合いじぶん時間を生きることができる田原暮らしは、アーティストにとっては一つの理想郷なのかもしれない。これからも二人の作品から目が離せなくなりそうだ。